なぜ私は「中小企業診断士はやめとけ」という本を書いたのか?予備校が隠す不都合な真実

はじめに:「キラキラ診断士像」への強烈な違和感

こんにちは。中小企業診断士の与田太一です。
もしあなたが今、中小企業診断士という資格に興味を持ち、「安定した高収入」「尊敬される専門家」「自由な働き方」といった未来を思い描いているのなら、私はまず、あなたに一つの問いを投げかけなければなりません。
「その夢のような話、本当に現実と合っていますか?」
私がこの、少々刺激的なタイトルの本を世に出そうと決意した理由は、極めてシンプルです。それは、私自身が診断士として活動する中で、世間にあふれる「キラキラした成功ストーリー」と、現場で見てきた「リアル」との間に、あまりにも大きな、そして誰も埋めようとしない溝があることに気づいてしまったからです 。
私が中小企業診断士として登録したのは2008年1月です 。独立したのは2010年ですが、正直なところ、本格的に中小企業支援の活動に力を入れ始めたのは、ここ数年のことです。その過程で、私は必死に情報を集めました。どうすれば診断士として稼げるのか、他の診断士は一体どうやって仕事を見つけているのか。しかし、いくら本を読んでも、ウェブサイトを見ても、その実態が全く掴めませんでした。
この「稼ぎ方が分からない」という悩みは、私だけのものではありませんでした。
私が事務局を務める診断士向けのマスターコースでも、多くの受講生から「診断士がどうやって稼いでいるのか分からない」という声を頻繁に耳にします。先日、弁護士である大学の後輩が診断士資格を取得した際も、彼から真っ先に連絡があり、こう聞かれました。「色々調べたけど、結局診断士が何をして稼いでいるのかよく分からないのですが…」と 。
専門家ですら、その稼ぎ方が分からない。
この業界には、世の中に決して出回ることのない、構造的な問題があるのではないか。この強烈な問題意識が、本書を執筆する原動力となったのです。
予備校があなたに決して教えない「残酷な真実」
虚像①:「年収1000万円稼げる!」という甘い幻想



資格取得を目指す方がまず目にするのが、予備校や出版社が発信する情報でしょう。そこには、決まってこう書かれています。
「予備校なんかを見ていると、『診断士は1000万円稼げる!』みたいに謳っていることが多いと思うんだ。もちろん、稼いでいる人もいるんだけど、それはごく一部なんだよね」
彼らが提示する合格体験記や、診断士になった後の華やかなタイムスケジュールを見ても、「どう考えてもこの働き方で年収1000万円は無理ではないか?」と感じるものが少なくありません 10。予備校や出版社は、ビジネスとしてあなたに受験してほしい、本を買ってほしいという明確な動機があります。そのため、彼らの発信する情報は、どうしても「都合の良い、実態と離れた情報」や、「うまくいっているごく一部の成功例」に偏ってしまうのです 11。
私が本書で伝えたかったのは、そうしたポジショントークに惑わされず、まずはこの業界のリアルな収入事情を直視することの重要性です。
虚像②:「協会で頑張れば仕事は来る」という無責任な神話
では、資格を取った後、具体的にどうやって仕事を見つければいいのか。この最も重要な問いに対して、ほとんどの情報源が提示する答えは、驚くほど曖昧です。
「正直言って、ほとんどの情報は『診断協会に入って、協会活動を頑張る』程度の情報しか出てこないんだよ」
私自身も、活動を本格化させようとした2年前、この言葉を信じて色々調べましたが、やはり同じ答えしか見つかりませんでした。しかし、実際に協会の中に入って分かった現実は、衝撃的なものでした。
「結局協会活動だけで稼いでいる人って、ほぼいないというのが現実なんだよ」
なぜなら、構造的にそうなっているからです。そもそも、本当に稼いでいる診断士は、本業が忙しすぎて、ボランティアベースの協会活動にそれほど熱心にはなれません。では、協会活動に熱心な「稼いでいる人」は何をしに来ているのか。それは多くの場合、
「自分の外注先の診断士を探しに来ている」のです。
中小企業の支援をしていると、自分一人では対応しきれない様々な分野の相談が舞い込みます。また、補助金の募集時期などは、オーダーが殺到し、物理的に仕事が回らなくなります。そうした時に、自分の仕事を下請けで手伝ってくれる、安価で便利なパートナーを探すために協会に来ている。これが実態に近いのです。
もちろん、そうした人に運良く出会い、仕事をもらえる可能性はゼロではありません。しかし、それは極めて「運に頼る部分が大きい」と言わざるを得ません。協会に入って活動すれば、自然と仕事が降ってくるという考えは、あまりにも無責任な神話なのです。
時代が変わった!今、この本を書かなければならなかった理由
理由①:「資格さえあれば安泰」の時代を終わらせた「補助金バブル」の崩壊



私が「今、この本を書かなければならない」と強く感じた背景には、診断士業界を取り巻く環境の劇的な変化があります。特に決定的だったのが、「補助金バブルの終了」です。
2021年、コロナ禍で傷んだ企業を支援するために、総額1兆円を超える「事業再構築補助金」が始まりました。
これは、私たちの業界では「補助金バブル」と呼ばれ、一種の狂乱状態を生み出しました。
「この時代はどうだったかと言うとね、下請けでも簡単に年収1000万を超えられたんだよ」
補助金ビジネスは、採択額の10%や15%を成功報酬として受け取るモデルです 。
例えば2000万円の補助金が採択されれば、それだけで200万~300万円の報酬になります。当時は採択率も50%近くと非常に高かったため、数をこなせば、たとえ元請けに報酬の多くを中抜きされる下請け診断士であっても、年収1000万円を達成することが可能でした 。
しかし、そのバブルはすでに崩壊しました 。国の予算は縮小し、不正の横行などで審査は厳格化。あの熱狂は二度と戻ってきません。大阪の有名なコンサル会社「北浜グローバル経営」の倒産は大きく報じられましたが、これは氷山の一角です 。私の周りでも、倒産寸前、あるいはすでに倒産してしまった診断士や法人が現実に存在します。


「今までの診断士のほぼ9割くらいは補助金で稼いでいた感じなんだ。それが補助金がなくなったということは、診断士の人たちは今後おそらくそんなに稼げなくなる、と僕は考えているんだ」



補助金やっている診断士だと、2023年度と2024年度で売上が1/3に減ったとか良く聞く話です。なので、正直、生活もままならない診断士が昨年から増加してます。恐らく、今後、廃業する診断士はもっと増えてくることでしょう。
これまで業界の収益を支えてきた巨大な柱が、音を立てて崩れ去った。この地殻変動こそが、旧来の「稼ぎ方」の常識がもはや通用しないことを示しています。この現実を、私は伝えなければなりませんでした。
理由②:AIの登場と「知識」そのものの無価値化
もう一つの、そしてより根源的な変化が、「AIの台頭」です。
正直に言って、これからの診断士に、試験で問われるような「知識」そのものの優位性は、ほとんど意味をなさなくなるでしょう。
私は診断士として、更新のために義務付けられた研修などに参加することがあります。そこでは、グループに分かれてワークショップを行うのですが、いつも心からこう感じます。
「どう考えてもそこで話している内容って、診断士同士で話すよりもAIに聞いた方が早いんじゃないか?ってすごく感じるんだ」



素人同然の診断士同士が時間をかけて議論するよりも、AIに問いかけた方が、よほど正確で、早く、網羅的な答えが返ってくる。これが現実です 。
つまり、かつて専門家の武器であった「知識」は、もはやAIによって代替可能なコモディティになり下がってしまったのです。
この変化のスピードは、私の想像を絶するものでした。
「僕の仕事で言うと、生成AIができる前と後では、今は生成AIに僕の仕事の7割くらいを任せちゃっているんだよ」
私の仕事の7割は、すでにAIに奪われた、とも言えます。特定の分野の知識がいくら豊富でも、それだけでは優位性を築けない時代が、もうそこまで来ているのです。
それでも、あなたは中小企業診断士を目指しますか?
「年収1000万」という幻想。「協会にいれば安泰」という神話。そして、「補助金」と「知識」という、かつての武器の崩壊。
ここまで、私は厳しい現実ばかりをお話ししてきました。
では、なぜ、それでも私はこの本を書いたのか。
それは、絶望を伝えるためではありません。本書の目的は、こうした残酷な真実をすべて白日の下に晒した上で、それでも「どうすれば、この厳しい時代を生き抜き、真のプロとして稼いでいくことができるのか」という、具体的な「生存戦略」を提示することにあります。
知識の価値が失われた今、あなたに残された武器は「行動」「ビジョン」「戦略」の3つしかありません。



その他大勢と同じ場所に行かず、ライバルを徹底的にリサーチし、AIを敵ではなく「君だけの専門家」として使いこなし、自らの力で仕事を開拓していく。
本書は、そのための具体的なノウハウと、思考法を余すところなく詰め込んだ、私の実践の記録です。
もしあなたが、ただ資格という「看板」が欲しいだけなら、この本は必要ないかもしれません。
しかし、もしあなたが、すべての幻想を振り払い、現実を直視し、自らの足で未来を切り拓く覚悟があるのなら。
本書は、その長く険しい道のりを照らす、唯一無二の地図となることを、私は確信しています。