40代・50代から中小企業診断士を目指すあなたへ。「やめとけ」という声を無視してはいけない理由


中小企業診断士の与田です。今回は、診断士のボリュームゾーンとして多い「40代・50代」から中小企業診断士を目指すことについて考察していきます。
長年の会社員生活で培った豊富な経験と、深く鋭い洞察力。それを武器に、人生の後半戦は、経営に悩む中小企業の助けとなり、社会に貢献しながら、専門家として確固たる地位を築きたい。
40代、50代を迎え、ご自身のキャリアの集大成や、やりがいに満ちたセカンドキャリアを考えたとき、経営コンサルタント唯一の国家資格である「中小企業診断士」が、非常に輝かしく、魅力的な選択肢に映ることでしょう。
予備校のパンフレットを開けば、「あなたの豊富な経験こそが、他の誰にも負けない武器になる」「定年後も高収入で安定した専門職」といった、希望に満ち溢れた言葉があなたを誘います。まさに、これまでの努力が報われ、第二の人生を華々しくスタートさせるための、最高の切符のように思えるかもしれません。
しかし、その一方で、インターネットの海に漕ぎ出せば、「中小企業診断士だけはやめとけ」「食えない資格の典型だ」という、冷水を浴びせるような、不穏な声も聞こえてくるのが現実です。
「それは一部の、準備不足だった若い人たちの話だろう」「自分には社会人経験という、揺るぎないアドバンテージがあるから大丈夫だ」。そう考えて、耳の痛い忠告から目をそらし、楽観的な未来像だけを信じようとしてはいませんか?
どうか、その一歩を踏み出す前に、少しだけ立ち止まってください。 特に、住宅ローンや家族への責任を背負い、失敗の許されない重要な人生の転換期にいる40代、50代のあなたにこそ、この「やめとけ」という声が持つ、本当の意味と重さを知っていただきたいのです。
この記事では、なぜ多くの人がこの資格に警鐘を鳴らすのか、その理由を、特に40代・50代が直面するであろう、より深刻で、より過酷な4つの現実に焦点を当てて、一切の忖度なしに解き明かしていきます。これは、あなたの貴重な時間、虎の子の退職金、そして何より、これからの豊かな人生を、後悔で満たさないための、極めて重要なメッセージです。
理由1:年齢という残酷な罠|「経験豊富なベテラン」ではなく、「ただの新人」として扱われる業界の現実



40代、50代のあなたが、中小企業診断士という新しい世界に飛び込む際に、最大の武器になると信じている「経験」。しかし、その武器は、あなたが思っているほど万能ではありません。むしろ、この特殊な業界においては、時として足かせにすらなり得ます。
あなたが「若手」になる、極端に高齢化した業界
まず、あなたを待ち受けるのは、常識が通用しない年齢構成です。中小企業診断士協会が公表している衝撃的なデータによれば、この資格保有者で最も多いのは50歳代で33.1%、次が60歳代で26.1%です。つまり、50歳以上で全体の約6割、60歳以上に至っては約4割を占めるという、極端に年齢層の高い業界なのです。
あなたがこれまでの会社で部長や役員といった立場で、多くの部下を率いていたとしても、この世界では全く関係ありません。あなたが50歳で診断士として登録した瞬間、あなたは「経験豊富なベテラン」ではなく、「診断士歴0年の新人」として扱われます。49歳の私ですら、この業界ではまだ若手から中堅。その現実に、まずプライドが揺さぶられることになるでしょう。



現場レベルでも、もう60歳にもなろうという新米診断士が、先輩にこき使われていることなんかも、良く見ます。
最大のライバルは、生活費を稼ぐ必要のない「年金診断士」
さらに厳しいのは、あなたが競争しなければならない相手です。あなたのライバルは、あなたと同じように「これから稼がなければならない」という切実な思いを持った人たちだけではありません。すでに会社員をリタイアし、十分な年金収入を得ながら、お小遣い稼ぎや社会との繋がり、あるいは生きがいとして活動している、いわゆる「年金診断士」が、実は市場にかなりの割合で存在しているのです。
彼らは、コンサルティング収入で生活費を稼ぐ必要がないため、驚くほど安い報酬で仕事を引き受けます。例えば、半日拘束されて報酬がわずか2万円といった、採算度外視の「公的業務」は、彼らにとっては格好の仕事です。しかし、これから家族を養い、住宅ローンを返済し、老後の資金を蓄えなければならないあなたにとって、それは「ビジネス」として到底成立するものではありません。
「豊富な経験」を武器に質の高いサービスを提供しようにも、市場価格そのものが、生活のかかっていない競合によって破壊されている。この不毛な価格競争の土俵で、あなたは戦い続けることができるでしょうか。
理由2:収入という厳しい現実|「安定したセカンドキャリア」は、ほぼ100%幻想に終わる



「診断士になって定年後の収入不安を、専門家としての安定した収入で解消したい」。そのように考えて、多額の費用と時間を投じて資格取得を目指すのであれば、その夢は、ほぼ確実に打ち砕かれると覚悟してください。
「年収1000万円」という、予備校が作り上げた虚像
多くの予備校が喧伝する「年収1000万円プレイヤー」というキラキラした成功者像。その根拠として使われる診断協会のアンケート結果は、前述の通り、そもそも「コンサル業務を年間100日以上行っているアクティブな層」だけを対象とした、実態とはかけ離れたデータです。ほとんど活動できていない、つまり稼げていない大多数の診断士は、その統計に存在すらしていないのです。
補助金バブルは崩壊し、焼け野原だけが残った
数年前まで、この業界には確かに「バブル」が存在しました。



コロナ禍で生まれた「事業再構築補助金」や「IT導入補助金」といった巨大な補助金案件によって、診断士の9割が潤い、経験の浅い下請けですら年収1000万円を超えることが可能でした。
しかし、その狂乱の時代は、もう二度と戻りません。コンサルタントによる申請代行といった不正の横行や、杜撰な審査が問題視され、国の監視は驚くほど厳格化しました。そして、予算も大幅に縮小され、かつてのような甘い汁を吸える市場は完全に消滅したのです。
40代、50代のあなたにとって、これは何を意味するでしょうか。それは、虎の子の退職金を投じて独立事務所を構えても、かつての最大の収入源であった補助金案件はほとんどなく、仕事が見つからずにただただ赤字を垂れ流し続けるリスクが極めて高いということです。
実際に、「独立するなら、まず1000万円は用意してください」と私は助言しています。それくらいの資金がなければ、生活が安定するまでの期間を乗り切ることすら難しいからです。会社員時代の安定した月収を捨て、人生の後半戦で、収入ゼロどころか多額の借金を背負うリスクを、あなたは許容できますか?
理由3:搾取されるという屈辱|あなたの「プライド」が、業界の悪習の餌食になる
長年のビジネス経験を持つあなたは、プロフェッショナルとしての高いプライドと倫理観をお持ちのはずです。しかし、診断士業界、特に診断協会という組織は、そうしたあなたのプライドを、いともたやすく、そして無残に踏みにじる「やりがい搾取」のシステムで成り立っているという事実を知る必要があります。
経験豊富なあなたほど狙われる、「報酬7割中抜き」の下請け地獄
運良く仕事を得られても、その多くは誰かの「下請け」です。そして、この業界では、あなたの報酬の約7割を元請けに中抜きされるのが相場なのです。あなたの豊富な経験や知識を駆使して、夜を徹して仕上げた渾身の事業計画書。その対価が、ほとんど汗をかいていない元請けに、こともなげに吸い上げられていく。この理不尽な構造に、プロとしてのあなたのプライドが耐えられるでしょうか?
「ただ働き」を是とする、診断協会の異常な体質



さらに悪質なのが、この業界、特に診断協会という組織には、「ただ働き」が構造化、常態化してしまっているという問題です。
協会の活動は、その多くを会員のボランティアに依存しているため、「勉強させてやる」「経験を積ませてやる」という大義名分の下、新人診断士を無給で使うことに、誰も何の疑問も抱いていないのです。あなたの「豊富な経験」は、彼らにとって、無料で使える便利なリソースとしか見なされない危険性すらあります。
極め付きは、資格維持のために課せられる「実務ポイント」制度です。コンサル実績のない企業内診断士は、自腹で数万円の費用を払い、自身の有給休暇を使って、無報酬で中小企業のコンサルティングを行う「実務補習」への参加を強制されます。
これまでのビジネスキャリアで、自腹を切って、休みを返上して、無給で働いた経験がありますか?診断士の世界では、それが国家資格を維持するための「義務」としてまかり通っているのです。長年、プロフェッショナルとして正当な対価を得てきた40代、50代にとって、これほど屈辱的なことはないでしょう。
理由4:時代の変化という絶望|あなたの「数十年の経験」が、AIに一瞬で無力化される
最後の理由は、これまでの3つとは次元が異なります。それは、最も根源的で、そして誰にも抗いようのない、時代の大きなうねりから来る問題です。あなたが、ご自身のキャリアの最後の砦、最大の武器だと信じている「数十年の経験と知識」。それが、AI(人工知能)という、静かで巨大な津波によって、一瞬で価値を失ってしまうという、あまりにも残酷な現実です。



AIの台頭はホワイトカラーにとって悪夢以外の何ものでもないです。これから、知識仕事の8割~9割はAIに取って代わられるのは確実です。
「知識」と「経験」の価値がゼロになる日
断言します。あなたが何十年もかけて蓄積してきた業界知識や分析ノウハウは、最新の情報を学習し続けるAIの前では、もはや絶対的な優位性を持ち得ません。



むしろ、古い成功体験に縛られたあなたの「経験」は、変化の早い現代において、判断を誤らせる足かせにすらなり得るのです。
これは決して遠い未来の話ではありません。私自身の仕事の約7割は、すでにAIに置き換えられました。かつては何日もかかった複雑な市場分析や事業計画書の作成は、今やAIを使えば数時間で、しかも人間より高い精度で完成させることができます。さらに衝撃的な事実をお伝えすれば、私が指導した専門知識が全くない高校卒の若者が、AIを使うことで、他のベテランコンサルタントが「これ、8割は書けていますね」と舌を巻くレベルの事業計画書を、いとも簡単に作成できてしまったのです。
今から、全く新しいスキルを学ぶ覚悟はありますか?
「知識を覚える」時代は終わりました。これからは、知識はAIに預け、それをいかに引き出すか、そしてAIにはできない価値をいかに提供するかが問われる時代です。そのためには、確率・統計の知識や、簡単なものでもプログラミングの考え方を理解することが不可欠になります。
40代、50代から、これまでのキャリアをある意味でゼロリセットし、全く新しい、そして難解なスキルを、若い世代と共に学ぶ覚悟が、あなたにはありますか?「これまでの経験を活かせる」という甘い言葉を信じてこの世界に飛び込むのは、あまりにも無防備で、危険なのです。



あくまで個人的な見立てですが、現在、50歳前後くらいであれば、会社の中にいてもAIの波から逃げ切れる可能性があるかと思います。ただ、40歳前後であれば、逃げきれない可能性が高いので、「ホワイトカラーの仕事がなくなった世界線」を真剣に考える必要があるでしょうね。
幻想を捨て、現実的な「武器」を手に取るために
ここまで、40代、50代のあなたが「中小企業診断士はやめとけ」という声を、決して無視してはいけない理由を4つの側面から解説してきました。
- 年齢の罠:あなたは「新人」として、価格破壊を仕掛ける「年金診断士」との不毛な競争に巻き込まれる。
- 収入の衝撃:「安定収入」は幻想。補助金バブルは崩壊し、虎の子の退職金を失うリスクも極めて高い。
- 搾取の構造:あなたの「豊富な経験」と「プライド」が、報酬7割中抜きやタダ働きの格好の餌食にされる。
- 時代の津波:あなたの最大の武器であるはずの「数十年の経験」が、AIによって一瞬で無力化されてしまう



率直に言って、40代や50代があくまで趣味の延長線として、自習で診断士の勉強するのはいいかもしれませんが、そんな暇があるなら、プログラミングと統計の勉強した方が、ビジネスマンとして生き残る可能性は高いと思います。診断士なんて、予備校とかに金払って取るような資格ではなくなってきていると言うのが、現場レベルでの正直な感想です。
これらは、あなたが描くであろう「輝かしいセカンドキャリア」とは、あまりにもかけ離れた厳しい現実です。しかし、私はいたずらにあなたの夢を壊し、挑戦を諦めさせたいわけではありません。この誰も語りたがらない不都合な真実を、武器として身につけてほしいのです。
これからの時代に診断士として生き残り、そして真に成功するために必要なのは、もはや資格そのものではありません。それは、AIを奴隷として使いこなすための具体的なスキルであり、他の士業が決してやってこなかった顧客視点の営業・マーケティング能力であり、そして業界の未来を語り、顧客を導く、あなた自身の揺るぎないビジョンです。
もしあなたが、この厳しい現実のすべてを知った上で、それでもなお、経営に苦しむ中小企業を救うという、崇高な使命に挑戦する覚悟があるのなら。そのための具体的な戦略と戦術のすべてを、拙著『中小企業診断士はやめとけってホント? 予備校や診断協会が教えてくれない年収のリアル』に、記しました。
人生の貴重な後半戦を、決して後悔に満ちたものにしないために。まずは本書を手に取り、甘い幻想ではない、現実的な「航海地図」を広げてみてください。あなたの挑戦が、真に価値あるものになることを、心から願っています。